一物全体食・不飽常食・身土不二

「職人館」主人・北沢 正和氏の講演より
2026 年6月30日
銀座NAGANOにて
長野県佐久市で「職人館」という農家レストランでシェフをしている北沢です。
長年料理をさせてもらっていますが、お米の魅力っていうのは、やっぱり健康に一番いいっていうことだと思うんだよね。自分で実証しなくちゃいけないもんで、俺は今年77歳なんだけどこんな感じでほぼ毎週いろんなイベントに呼ばれて全国あちこちを元気に飛んで歩いています。
今回は「長野県のお米」というお題をいただきましたので、これからお米を使った料理を4品と飲み物を出させていただきながら話をさせてもらいます。

お米というと、どうしても精米した白米を炊いただけのご飯を想像してしまうけど、それだけではあまりお米の需要は拡大しないと思うんだ。イタリアとかスペインでは、お米はもっと多様な食べ方がされてるんだよね。
日本もね、白米を炊いたご飯だけに焦点を当てて「食味がどう」とか言うだけでなく、お米を他の食材と同じように考えて、いろんな料理に使うことを考えた方がいい。お米はすごく多様に使える食材ですよ。というわけで、今日は皆さんにお米料理の参考例として4品、最後はお米のデザートまで召し上がってもらおうと思って試食を用意しています。
俺は普段玄米を食べてるんだよね、それが一番の健康の源だと思う。それで職人館の料理のコースの中にも必ず一品はお米を使った料理を出すようにしてるんです。
健康につながるお米の魅力は3つあると思うんです。
1つは「一物全体食」。これは1つの生命が入ったものを丸ごと食べるのが、一番体にもいいという考え方です。
つぎに「不飽常食」。これは、毎日食べていても飽きないで、いつでも食べられるものがいいという考え方。
最後が「身土不二」。身の回りの土で育った季節にとれるものを食べるということ。
この3つがね、体に一番いいという考え方なんです。
お米というのは、この3つに一番かなっている食物じゃないかなっていう気がしています。なので、できれば「一物全体食」で、なるべく土が恵んでくれる、あるがままで食べるのが一番いいと思うんですよ。
皆さんのお手元に、スプーンに入れた玄米を用意しました。

これは、俺の近所の農家が無農薬で作ったあきたこまちを炒っただけの玄米です。どうぞ皆さん、スプーンでそのまま口の中へ放り込んじゃってよく噛んでいると、何とも言えないいい味が出てくると思うんですよ。
醸す(かもす)っていう言葉があるんだけど、これね、口の中でよく噛んですぐ飲み込まずに味わうっていう意味。この食べ方が今だんだんできなくなってるんだよね。噛まなくてもいいような料理が多くなっちゃってるから。
本来ね、食べるっていうのは口の中でものを醸して自分で味を作り出すっていう行為。現代はそこからどんどん遠ざかっている。白米にすると、あまり噛まなくてもどんどん食べられちゃうんだよね。でも、玄米をよく噛んでいると、口の中で何とも言えないいい味になってくるんですよ。
酒を醸すと言うけど、これは「噛む」から来てるんだよね。平安時代の酒は口噛み酒って言ってね、生娘にお米をよく噛ませて、噛んだお米を壺に吐かせて作ってたそうです。口の中で醸して自分なりの味を作り出すっていうことから考えると、お米は一番いい食材だと思うんです。
それと玄米の横に2種類の塩を添えてあります。一つは「銀葉藻」っていう海藻と一緒に煮詰めてもらってる塩。白い方は海水を天日干しした塩です。
いいお米だったら本当は塩とお米だけで十分食べられるんだよね。
それを味わっていただきたくて、最初にお出しするのは、炒り玄米を水から煮込んでふやかし、そこにこの塩をちょっと入れ、山から採った実山椒を香り付けに入れたスープ。どうぞみなさん召し上がってみてください。
このスープは本当に玄米の味。玄米だけでこれだけの滋味深い味が出ちゃうんだよね。まあ料理人のいらない料理だね。コンソメをつくる手間も必要もない。
俺もフレンチだ、イタリアンだ、中華だっていろんな料理やってきてるからわかるけど、コンソメ作るなんて言えば、とんでもない時間がかかる。玄米炒って、水入れて、煮立てただけでこれだけの味が出る。だから、米の味の魅力ってものすごくいい。玄米のミネラルな味のある外の部分を白米にして捨てちゃうって、ものすごくもったいないと思うんだよね。
じゃあ、料理人たるもの口で語らず料理で語るということで次の料理を用意します。

はじめは、玄米・古代米にそばの実を入れたリゾットで、黒い豆は「雁喰豆(がんくいまめ)」っていう村で昔から作ってる豆。黒豆の伝統種だけど、丸くなくて扁平の豆のくぼみにあるシワ模様が、雁がくわえた跡のように見えることに由来するとも言われています。
米は無農薬の「あきたこまち」の玄米。上に3年寝かした熟成チーズを振ってあります。付け合わせは無農薬の野菜です。召し上がってみてください。これも味は塩だけ、これも白米にするとこういう味は出ない。白米の場合、いろんな調味料を使って味を出す。こうして味を付けると、自然の味からどんどん遠ざかっちゃうんだよね。
では、デザートですけど、これも「あきたこまち」をデザート風にしました。

これは無農薬の「あきたこまち」を赤ワインとオーガニックの三温糖で煮込んであります。ヨーグルトと一緒に盛り付け、ブルーベリーを添えました。こんな感じでお米はデザートにも使えるっていう参考に召し上がってもらえればと思って作りました。
あと飲み物はオーガニックの玄米と緑茶とミントを煮出してあります。

今日はお米を「食材」として考えて、多様に使えばいろんな料理ができるという例を皆さんに召し上がってもらいました。精米した白米を炊いただけがお米の食べ方で、その食味だけで判断すると、米需要拡大の事業は狭くなってしまうのではと思います。
お米も他の野菜や果実などと一緒に「食材の一つ」として考えて、「料理の素材」として使ってもらえるようにしていけば、長野県のお米の魅力が多くの人に広がり、健康のためにもいい。
考えるとね、料理って何のためにやるかっていうと、食べてくれる人が健康に生きるためだと思うんだよね。その中でお米、特に玄米は体にいいので、もっともっと長野産のお米がたくさん食べられるといいなと思います。
今日はどうもありがとうございました

1992 年、長野県佐久市の古民家を再生し、地域食材と職人の技を融合させた、農家レストランの草分け「職人館」をオープン。蕎麦と創作料理を提供し、世界中から料理人と食通が訪れる店として知られている。2024 年に農林水産省が料理人の功績を顕彰する「料理マスターズ」の最高位であるゴールド賞を受賞。
北沢 正和氏 プロフィール
1992 年、長野県佐久市の古民家を再生し、地域食材と職人の技を融合させた、農家レストランの草分け「職人館」をオープン。蕎麦と創作料理を提供し、世界中から料理人と食通が訪れる店として知られている。2024 年に農林水産省が料理人の功績を顕彰する「料理マスターズ」の最高位であるゴールド賞を受賞。